近年、SNS・インターネット上での誹謗中傷が社会的な関心を集めています。インターネットは匿名性の高さや情報の拡散しやすから悪口や嫌がらせの被害が増大しやすく、子どもトラブルに巻き込まれる可能性があります。 本記事では、子どもが安全にインターネットを利用するために、保護者が気をつけるべき点をご紹介します。
インターネット上での誹謗中傷とは
誹謗中傷とは、人の社会的評価を低下させることを目的に行われる人権侵犯行為です。一般的には、誹謗中傷には次のような種類があるとされています。
名誉毀損 |
事実を摘示し、公然と人の社会的評価を貶めること |
侮辱 |
事実の如何に関わらず公然と人を罵ること |
プライバシーの侵害 |
相手の個人的な情報を公開すること |
識別情報の摘示 |
許可を得ずに相手のアイデンティティを公表すること |
インターネット上では、匿名性の高さ、安易な書き込みのしやすさから誹謗中傷が発生しやすく、また情報の伝播性の高さから一度発生した被害が増大する傾向にあります。誹謗中傷は被害者の心身へ甚大なダメージを与えるだけでなく、加害者も名誉毀損罪や侮辱罪などの刑法による処罰の対象になる可能性があるほか、高額の慰謝料請求が発生することもあり、影響は少なくありません。
誹謗中傷の現況
法務省(2022)の人権擁護機関によると、インターネット上を含む全体の人権侵犯事件の新規救済手続開始件数は年々減少傾向にある一方で、インターネット上での人権侵犯事件の新規救済手続開始件数は微増減を繰り返しながら高水準で推移しています。2021年に新規に救済手続が開始されたインターネット上の人権侵犯事件は、前年より43件増加の1,736件でした。
また、警察庁(2022)の発表によると、2021年中に検挙されたインターネット上での名誉毀損は315件であり、前年の291件より24件増加しました。
改正される法的措置
インターネット上での誹謗中傷の増加を背景に、法的措置も相次いで見直しが進んでいます。
2022年7月には、誹謗中傷への厳罰化を求める社会的な声の高まりを受けて、侮辱罪への法定刑が引き上げられました。これまで侮辱罪には、勾留(30日未満)もしくは科料(1万円未満)という軽い刑が適用されていましたが、現在では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が追加されました。改正前は1年だった公訴時効も現在は3年に延長されています(法務省, 2022)。
2022年10月からは、SNSに誹謗中傷を書き込んだ発信者情報の開示請求の円滑化を目的とした、いわゆる「プロバイダ責任制限法」改正案の施行が予定されています。現行の手続きでは、発信者特定のために、まずコンテンツプロバイダー(SNS事業者など)に通信記録の開示を請求し、次いでその記録をもとにサービスプロバイダーに氏名や住所の開示を求める訴訟を起こさなければならず、最低でも2回の手続を経る必要があります。改正法では、この発信者情報の開示を1つの手続で可能とする「新たな裁判手続」(非訟手続)が創設されます(総務省, 2021)。これまで発信者情報の開示請求の手間から、誹謗中傷の被害を受けても訴訟に踏み切れずに泣き寝入りしていたケースの救済になることが期待されています。
家庭での対策
法が改正されても、加害者への法的責任の追求は依然として被害者に精神的、金銭的な負担がかかることには変わりありません。家庭においては、子どもが被害者としても加害者としてもトラブルに巻き込まれることのないよう、SNSなどインターネット上への書き込みには十分に気をつけるように注意を徹底する必要があります。
SNS・インターネット上への書き込みで気をつけたいこと
書き込みは匿名ではない
対面や実名では言えないことも、匿名だと思うと言えてしまったり、攻撃的になったりすることもあります。しかし、実際にはプロバイダーに情報の開示請求をすることで、発信者の特定が可能です。インターネットの匿名とは、決して匿名ではないことを理解した上で発信しましょう。
批判意見と誹謗中傷は違う
事実であれ事実無根であれ、相手がどのような立場であれ人格や識別情報を否定する発言やその拡散行為(リツイートやリポストなど)は人権侵犯にあたります。軽い気持ちやついカッとなって相手に意地悪な言葉をかけようとしていないか気をつけましょう。
書き言葉は誤解される
インターネット上での書き言葉でのやりとりは相手の表情や声色がわからない分、ときとして予期せぬ誤解を招き、悪意のない発言でも誹謗中傷と受け取られてしまう可能性があります。発信前に必ず文面を読み直すなどして、誤解されにくい投稿をするよう心がけましょう。
交流相手を限定する
誰かからの書き込みやメッセージで嫌な気持ちになったら、速やかにミュートやブロックを行い、早期に相手をシャットアウトすることも大切です。
不特定多数の目に触れることで嫌がらせの対象にされてしまうのを避けるために、自分のアカウントを非公開の鍵アカウントにするのも被害の防止策として有効です。ただし、自分の投稿を読むのはフォロワーだけだからといって、自分が他人への誹謗中傷を行う側に回らないように気をつける必要があります。
トラブル遭遇を想定する
トラブルに巻き込まれてしまった場合に備えて、対処方法をあらかじめ把握しておくことは、いざというときに落ち着いて迅速に行動する助けになります。総務省がWeb公開している「安心・安全なインターネット利用ガイド」の特集ページである「SNS等の誹謗中傷」では、受けた誹謗中傷の内容や希望する対処方法の要望ごとに相談先の掲載があり、トラブルに巻き込まれた際の参考になります。
ペアレンタルコントロールの活用
子どもにインターネット上での誹謗中傷に関する注意喚起を行っても、即座に危険性を理解し、デジタル機器を適切に運用できるわけではありません。保護者による子どものインターネット利用の見守りに、ペアレンタルコントロールアプリの導入も検討してはいかがでしょうか。
「ESET Parental Control for Android」は、アプリの利用時間やWebサイトの閲覧履歴を確認するレポート機能を備えています。
「ESET Parental Control for Android」のレポート機能画面
子どもSNSを利用しすぎる傾向にある場合は、アプリの利用時間を制限することも可能です。
「ESET Parental Control for Android」のゲーム(アプリ)の時間制限設定画面。
最後に
インターネットの普及により人との交流が便利になった一方で、誰もがSNS・インターネット上の誹謗中傷に巻き込まれる可能性が増しています。保護者はインターネットの特性と危険性を理解し、ペアレンタルコントロールアプリなどを活用しながら、子どものSNS・インターネット利用を見守りましょう。
参考文献
“令和3年における「人権侵犯事件」の状況について”. 法務省. 2022.
https://www.moj.go.jp/content/001369648.pdf, (accessed 2022-07-28)
“サイバー空間をめぐる脅威の情勢等”. 警察庁. 2022.
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R03_cyber_jousei.pdf, (accessed 2022-07-28)
“侮辱罪の法定刑の引上げについて”. 法務省. 2022.
https://www.moj.go.jp/content/001375699.pdf, (accessed 2022-07-28)
“プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律”. 総務省. 2021.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000777232.pdf, (accessed 2022-07-28)
“「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」”. 総務省. 2020.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000755959.pdf, (accessed 2022-07-28)