「自画撮り被害」という言葉を知っていますか?加害者がSNSやオンラインゲームで子どもに近づき、チャイルドグルーミングと呼ばれる方法で子どもを手懐け、おだてたり脅したりして裸などの写真や動画を撮らせて送信させる犯罪です。子どもがスマートフォン(以下、スマホ)で簡単に写真を撮り、送信できる現在だからこそ起きるこの性犯罪被害を防ぐためにはどのような対策が有効でしょうか。
年間500人以上が被害にあう自画撮り被害
警視庁(2022)が発表した「令和3年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況について」によると、児童ポルノ被害の中でもっとも被害者数が多かったのは「児童が自ら撮影した画像による被害」いわゆる「自画撮り被害」でした。加害者が子どもに性的な自撮りを要求するこの犯罪の被害者の数は増え続け、統計開始年の平成24年と比較するとその数はなんと2倍以上にまで広がっています。
自画撮り被害の被害者で最も多い学職区分は中学生で46.9%、高校生まで含めると実に9割を占めています。小学生の被害者数は単年ごとに増減を繰り返していますが、全体的に見て増加傾向にあると言えます。
加害者の手口「チャイルドグルーミング」
自画撮り被害の加害者は、その他の子どもへの性的虐待や性犯罪と同様に「チャイルドグルーミング」という手口を利用します。SNSのダイレクトメッセージ機能やゲームアプリなどのチャット機能を利用してターゲットの子どもに近づき、魅力的な同性・異性へのなりすましや金品の交換を仄めかすような言動を繰り返して好意を持たせます。子どもが心を許したところで、自分で撮影した裸の画像を送信するように要求します。チャイルドグルーミングは、子ども自身が被害にあったことに気づくのを遅らせたり、周囲の大人への報告をためらわせたりする原因にもなります。
東京都都民安全推進本部はインターネット上で被害事例を公開しています。たとえば、女子高校生がゲームアプリ内のチャットで女性を騙る男に身体に関する悩みを相談したところ、助言に必要だと言われて顔や胸や性器の画像を送るよう指示され、言われるままに自撮りを送付してしまったケースや、男子高校生がインターネットで知り合った男と連絡先を交換した後、男から執拗に裸の画像送信を求められるようになり、あまりのしつこさに一度だけ送信したところ、さらなる画像送信を催促され、断ったところ電話での脅迫に発展したケースが報告されています。
また小学生の被害者数が増えていることも注意が必要です。事例を見ると、動画投稿サイトに自身の映る動画を投稿していた男子小学生が加害者に目をつけられ、SNSでのやりとりを重ねるうちに裸の画像要求され送信してしまったケースや、女子小学生がSNS上で使用する有料スタンプの見返りとして裸の画像を送ってしまったケースなどが報告されています(坂元, 2017)。
子どもが送ってしまったデータがインターネット上に流出すると、事実上の削除・回収が不可能となり、子どもの将来にわたる精神的な苦痛の原因となるだけでなく、脅迫などの二次被害に発展する可能性もあることから、子どもの被害を未然に防ぐ対策が必要です。
家庭でできる「自画撮り被害」対策
家庭でできる対策には、子どもにインターネット上のコミュニケーションに潜む危険性を知ってもらう安全教育と、子どもが使用するスマホなどのデジタル機器に技術的な制限を設けるペアレンタルコントロールがあります。
安全教育
幼児期(1歳ー5歳)
幼児期の子どもにスマホやインターネット利用の危険性をそのまま伝えても、理解してもらうのは難しいでしょう。この年代の子どもは、まずは自分のからだの大切さを学ぶ必要があります。
令和3年から、文部科学省推進の「生命(いのち)の安全教育」がスタートし、幼稚園や保育園でも子どもが自分のからだの大切さを学ぶ機会が増えてきました(文部科学省, 2021)。自分の口や水着で隠れる場所、いわゆるプライベートゾーンを他人に見せたり触らせたりしてはいけないように、スマホでの撮影もしてはいけないということを家庭でもしっかりと伝えていくことが重要です。
さらに、動画の視聴にはYouTube Kidsなどの幼児向けアプリを利用し、子どもが安易に対象年齢外の動画にアクセスしたり、コメントを送信できないようにしたりする工夫も大切です。
児童期(6歳ー12歳)
児童期には、家族や友人との連絡にLINEなどのコミュニケーションアプリを利用しはじめる子どもも増えますが、連絡を取り合う範囲は現実に付き合いのある人だけに限定するようにします。なお、LINEは独自のSNS機能「LINE Voom」を提供しており、フォロワーに向けて投稿を発信することができます。投稿の公開範囲を友人に限定するなどの設定も怠らないよう注意しましょう。
子どもがSNSやオンラインゲームをどうしても利用したい場合は、多くのサービスでは13歳以下のアカウント開設を禁止している事実を踏まえ、どのような危険が考えられるかを親子で話し合い、サービス内での交友範囲を家族・友人に限るなど、不特定多数と交流しないように見守る必要があるでしょう。
思春期(12歳ー18歳)
交友関係もひろがり、本格的にSNSやオンラインゲームなどを利用しはじめる年代です。保護者がアプリ上の交友関係をひとつひとつ管理するのは難しい年齢であり、子どもも成長とともにインターネット上の危機を自ら回避する能力を身につける必要が出てきます。そのためには、インターネットを通じて起きた実際の性犯罪・性暴力事件の事例などを参考に、交流する相手との距離感や、実際に被害に遭うとどのような影響が心身にあるのかを子どもに学んでもらいます。これには、総務省が運営するWebサイト「安全・安心なインターネット利用ガイド」などが役立ちます。また性犯罪・性暴力にあった場合の対応方法もあわせて教えることで、万が一、被害に遭ったときには保護者に限らず信頼できる大人に相談できることを知ってもらいましょう。
ペアレンタルコントロール
SNSに起因する事犯では、被害児童のアクセス手段の95%がスマホですが、被害時にスマホにフィルタリングが設定されていなかった被害者数は87.6%にものぼっています(警視庁, 2022)。スマホのフィルタリングは、子どもがインターネット上の有害な情報を閲覧できないようアクセスを制限する大切な機能であり、未成年がスマホを利用する場合には、携帯電話事業者はフィルタリングを提供しなければならないことが法律で定められています。子どもが使用するスマホにフィルタリングが設定されていない場合は、すぐにでも設定する方がよいでしょう。
しかしスマホに備わっているフィルタリング機能だけでは十分に安全とは言い切れません。フィルタリングをかけると、有害なWebサイトではない「一般的なWebサイト」もブロックされてしまいます。この一般的なWebサイトにはYoutubeなどの動画サイトも含まれてしまうため、子どもが自分の閲覧したいWebサイトを見られず、こっそりとフィルタリングを無効化したり、保護者の方でも子どもの激しい要求に耐えかねてフィルタリングを外してしまったりする可能性があります。
フィルタリングはしたいが自由度も欲しい、という悩みに有用なのが、セキュリティベンダーからリリースされているペアレンタルコントロールアプリです。「ESET Parental Control for Android」の「Webガード」機能を利用すると、子どものスマホからの不適切なWebサイトへのアクセスのブロックや、子どものスマホでの検索結果には不適切なサイトを表示しないなどの制限を設けることが可能です。不適切としてブロックされているカテゴリに属するWebサイトを子どもが閲覧したい場合には、保護者のスマホ宛に閲覧許可を申請することもできます。
不適切なWebサイトへのアクセスをブロックする「遮断」機能と、検索結果から不適切なコンテンツをブロックする「セーフサーチの適用」機能があります。
「ESET Parental Control for Android」の「Webガード」機能画面
「遮断」機能でブロックされた不適切なWebサイトへアクセスしたい場合は、子どものスマホから保護者へ閲覧許可の申請ができます。
「ESET Parental Control for Android」の「遮断」機能でブロックされた不適切なWebサイトへアクセスした際の子どものスマホ画面
最後に
自画撮り被害は、子どもが自撮り画像や動画を送付しなければ被害を防げる性犯罪です。それでも毎年500件以上の被害が発生していることから、子どもの力だけでは被害を未然に防ぐのが難しい犯罪であることがわかります。子どものスマホにフィルタリングを設定したり、モニタリングアプリによる利用実態の把握の他、家庭でもインターネット利用に潜む危険性などを話し合い、防犯意識を高めることが大切です。
参考文献
警察庁(2022)「令和3年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況について」
https://www.npa.go.jp/index.html
東京都都民安全推進本部「「自画撮り被害」防止に向けて~東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正~」
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/tomin_anzen/
坂元章(2017)「いわゆる「自画撮り被害」に遭う子供たちについて」
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/tomin_anzen/
文部科学省(2021)「生命(いのち)の安全教育について」