動画視聴の影響
動画視聴の子どもへの影響と聞くと、長時間の視聴による生活の乱れや家族間のコミュニケーションの不足、視力の低下などの健康被害が思い浮かびますが、他にも次のような可能性が潜んでいます。(なお、子どものインターネット利用時間対策について知りたい方は、本サイト別記事「子どもはスマホ依存?インターネット長時間利用の対策」をご参照ください。)
不適切なコンテンツを視聴してしまう可能性
動画投稿・共有サイトでは、原則的には誰でも自由に動画を投稿できるため、内容や年齢制限は担保されず、子どもが未成年者に不適切な動画を視聴してしまう可能性があります。YouTubeでは動画に利用規約違反が認められる場合は、当該動画の削除、アップロード元アカウントへの警告やアカウントの利用停止または削除が行われますが、プラットフォームには膨大な数の動画が共有されているため、かならずしも適切に規約違反の動画を配信停止にできているわけではありません。
2017年には、子どもに人気のあるキャラクターを悪用して未成年者の視聴を促していた成人向け内容を含む動画が話題になり、YouTubeはファミリー向け動画作成のガイドラインの制定や不適切な内容を含むファミリー向け動画への広告表示の規制、未成年者が出演している動画への不適切なコメントのブロックなどの対応をしました(Feller他, 2021)。
2019年には、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)違反を受け、子ども向けに分類される動画には様々な制限が設けられました。現在、子ども向けの動画では、コメントやチャンネルからの通知、再生リストへの追加などの機能が使用できません(Feller他, 2021)。
このように度重なる改定を重ねているYouTubeですが、それでも日々大量にアップロードされる動画の中から未成年者に有害なコンテンツを完璧に弾くのは難しく、子どもが悪意のあるコンテンツやコメントに晒される可能性は残ってしまいます。
購買行動に影響を受ける可能性
子どもは、ファミリーYouTuberやキッズYouTuberのような子どもが出演する動画を好みます。とくに子どもが画面に登場し、おもちゃを開封するアンボグシング動画(開封動画)は人気で、世界のトップYouTuberの中には年間3000万ドルもの広告・ライセンス収入を得ている子どももいるようです。華やかな成功を収めているように見えるYouTubeの世界に憧れる子どもも多く、日本FP協会(2022)が発表した「2021 年小学生『将来なりたい職業』ランキング」によると、男子では5位にYouTuberがランクインしました。女子では21位でしたが、アイドル・芸能人が30位であったことを鑑みると、YouTuber人気の高さが伺えます。
しかし、子どもやその家族が出演している動画だからといって、手放しで見せるのは考えものです。10歳前後の子ども300人を対象にしたアメリカの研究では、子どもがキッズインフルエンサーの出演するコンテンツを視聴することは、キッズインフルエンサーを模倣したいという子どもの欲求を通じて、関連商品の購入につながることが明らかになったとしています(Rasmussen他, 2021)。
キッズインフルエンサーへの憧れが子どもの消費者行動を変えるのだとしても、保護者としては、キッズYouTuberが子どもに良い影響を与えるコンテンツだけを提供してくれれば問題ありません。しかし、3歳から14歳のキッズインフルエンサーが出演する食品・飲料が出てくる動画418件(うち179件が食品・飲料を題材としている動画)を対象とした調査では、キッズインフルエンサーは、不健康な食品・飲料ブランドのプロダクト・プレイスメント(コンテンツの中に広告商品を取り込み、より自然な形で視聴者に宣伝する手法)を通じてより多くの広告表示回数を稼いでいる結果が示されました(Alruwaily他, 2020)。認知能力が発達途上にある子どもにとって、動画内のコンテンツと広告をシームレスに融合させるプロダクト・プレイスメントは、従来のテレビCMよりも広告を広告と見分けるのが難しいとする調査もあります(Owen他, 2013)。子どもはキッズインフルエンサーのコンテンツを楽しんでいただけなのに、スポンサー企業にしっかりとマーケティングされていた、ということは大いにありえることです。
児童労働の搾取に加担する可能性
大金を稼ぎ出すキッズインフルエンサーたちは今や一大産業です。けれども、その世界は華やかなだけではありません。子どもを収益の手段にすることで、子どもの幸福を奪うこともあります。極端な例では、2019年にはアメリカで、動画を作成する過程で7人の子どもを虐待したとして、人気のあったYouTubeチャンネルを運営していた母親が逮捕される事件がありました(The Guardian, 2019)。
このような事件が発生する背景には、キッズインフルエンサーに対する法整備の甘さが考えられます。2020年からキッズインフルエンサーのライセンス登録や報酬の管理の義務化が実施されたフランスなど一部の国を除き、日本を含む多くの国では、キッズインフルエンサーには従来の児童労働法が適用されません。児童労働法の適用が難しいとされる理由には、13歳以下のアカウント開設を禁じているソーシャルメディアが多く、アカウントの運営者が子ども自身ではないこと、動画やコンテンツの制作が保護者の手により自宅などプライベートな空間で行われていることが挙げられますが、何よりも近年に興ったエンターテイメントの一形態であるために対応が追いついていないという側面があるようです。
さらに、キッズインフルエンサーとして活動する子どもへの長期的な影響を懸念する研究者もいます。子どもの生活を多くの視聴者に晒すことは、子どもが精査や批判をされることにつながり潜在的な害悪があると、南カリフォルニア大学のノース教授は言います。また教授は、従来の子役とソーシャルメディアのインフルエンサーの違いは、子どもが番組のために誰かを演じるのではなく、子ども自身が番組であることだとし、それが子どもの成長にどのような影響を及ぼすのは誰にもわかっていないとしています(CBS News, 2019)。
子どもが楽しんでいる動画であっても、それが別の子どもの搾取の上に作られている可能性があるのであれば、保護者としては見せたいものではありません。
対策
低年齢層の子どもがYouTubeを視聴するのであれば、12歳までの子どもの利用を前提とした「YouTube Kids」の利用を検討しましょう。年齢別に閲覧可能なコンテンツをレベル分けする機能、タイマー機能、動画・チャンネルのブロック機能が備わっているだけでなく、検索機能をオフにすることもできます。また、YouTube Kidsは無料で入手できるアプリながら、広告の表示は少なく、かつ、子どもによる閲覧にも対応した広告のみが配信されるのも安心できる点です。13歳以上であれば、YouTubeの年齢制限機能を活用すると良いでしょう。
とはいえ、悪意のある動画配信者や紛れ込む広告を一掃するのは難しいことです。年齢制限を設定しているから、と子どもに利用を任せきりにするのではなく、子どもにも動画投稿・共有サイトには安全ではないコンテンツが紛れている可能性や、子どもの視聴者も広告ターゲットになっていること、動画配信者が収益を得る仕組みなどを学んでもらい、視聴者として適切なコンテンツを賢く選択できるようになることが大切です。
最後に
オンラインでの動画視聴は、近年出現した余暇時間の過ごし方であり、法整備の観点からも、技術的な観点からも、子どもへの安全性が確保されているとは言えません。だからといって単純に視聴を禁止するのではなく、保護者も子どもも動画視聴にはどのような懸念点があるかを認識し、自律的に視聴動画を選択できるようになるのが望ましいでしょう。
参考文献
総務省情報通信政策研究所. “令和3年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>”. 総務省. 2022. https://www.soumu.go.jp/main_content/000831289.pdf, (accessed 2022-11-26)
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Ines Novacic. “‘It's kinda crazy’: Kid influencers make big money on social media, and few rules apply”. CBS News. 2019. https://www.cbsnews.com/news/kid-influencers-instagram-youtube-few-rules-big-money-cbsn-originals/, (accessed 2022-11-26)